2012年5月18日金曜日

羽根メンタルクリニック 精神科,心療内科 心療内科



  最後に、薬物と並び治療のもうひとつの柱である精神療法についてお話します。一般的にはカウンセリングと言っています。「カウンセリングを受けたい」とか、「カウンセリングを受けたらどうか、と言われた」と来院される方もあります。しかしカウンセリングとはどういうものなのか、中々説明がし難いものです。実際にやっていく過程で、何となく「こういうものなのだ」と納得していくようなものです。

  精神療法にもいろいろな方法があります。例えば、洞察を目指す精神分析的精神療法(精神分析)や交流分析。説得、再保証、励まし、助言などをすることによって適応を容易にさせるような支持的精神療法。心の底にある不満や憎しみ、口惜しさなどを治療場面で語り発散させる方法。条件付けにより実際の体験をやり直させることにより適応性をつける方法(森田療法や行動療法)などがあります。


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  最初にも述べましたが、精神科の扱う病気の基には不安の問題があります。そして不安は対人関係の所産として生み出されるものです。また精神疾患の治療の柱は、薬物と精神療法ですが、100%薬だけで良くなる病気は殆どありません。てんかんの患者さんでも、病気や治療の説明、生活の指導などが必要です。これは一般科の診察と同じですが、これも立派な精神療法です。本当に優秀な外科医は、メスの扱いだけではなくこのような精神療法が旨いものです。病気であるという不安な状態を軽減し、病気を持ちながらも生活ができたり、あるいは病気がいずれは治るという希望や安心感をいかにして与えるのかも精神療法の結果如何です。

  さて、精神科で行う精神療法ですが、上に挙げた幾つかの方法を使い分けたり、組み合わせたりします。病気の基には、各々の病気によって質は違いますが不安が横たわり、それが症状をもたらしています。そこで如何にすれば不安が軽減されるのかを考えていくわけですが、薬、休息、精神療法をどのように組み合わせるかをまず考えます。それが病気の見立てと治療の見立てです。この時に必要なのは、診断技術と治療の見通しつまり治療戦略をどのように立てるかです。どの患者さんにも、どんな病態にも洞察的な精神分析を選択するわけではありません。


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  例えば精神分析的な精神療法は、一般的には神経症レベルの患者さんが適応とされていますが、神経症の患者さんの多くは少量の精神安定剤を飲むことで良くなります。また、初診時にこれまでの経過を語り症状や生活のあるいは家族の状況などを語る中で、自然にカタルシス(発散、不安などからの解放)が生じることもあります。単純に、「人には言えないようなことを十分聞いてもらって、楽になった」という患者さんは沢山みえます。人知れず悩んでいたことを話できる場ができたことだけで、あるいはそういう悩みや苦しみに耳を傾けてくれる人ができただけで、再び安心感を取り戻す患者さんは多いのです。さらに、ちょっとした助言や行動の指針などをアドバイスしたり、知らず知らずの内に捉われている行� �や思考のパターンを指摘することで、自らの現状を客観的に理解しパターンを変え楽に現実適応ができる場合もあります。

  しかし時には精神分析的な精神療法を選択するしかない場合も出てきます。症状をもたらす不安そのものに迫らないと、症状が軽減しない場合があります。では、精神分析的な精神療法とはどんなものなのでしょうか。


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  人は生まれてからいろんな体験をします。一つ一つの体験において、あるいは不安になったり、不満や不快を感じたり、葛藤に悩んだり、満たされない願望を抱いたりします。小さな子供ほど重い荷物が持てないのと同様に、小さな子供ほどこのような不安や不満、不快感や葛藤などを持つことができません。自分を保つことができないほど大きな不安などを体験した場合、その体験はなかったものとして処理され、心の奥深くに仕舞い込まれます。この心の奥底を、無意識と呼んでいるのですが、無意識には生まれてから今までの上に挙げた不安などが、「臭いものには蓋を」されて詰まっているのです。こうした不安や不満、不快感、葛藤などは、その時々の人との関係から生まれます。例えば、最近話題になる幼児虐待の場合、暴力� ��受けた幼児はその時感じた恐怖感や不安、不快感を「体験しなかったもの」として無意識に沈めてしまいます。そして暴力を振るった父親(あるいは母親)と、このような恐怖感などとを結びつけることはありません。


  こうした不安などが、何年も先に(時には40年、50年後に)何らかのきっかけで押さえていた蓋を押しのけて意識に出てこようとします。意識は(無意識的に?)何とか蓋が開かないように抵抗・防衛しようとします。ここで蓋を開けようとする圧力を弱めるために、さまざまな症状が出てきます。つまり症状は無意識に押し込められていた不安などが、姿形を変えて意識に出てきたものなのです。ちなみに、薬も蓋を開けようとする圧力を弱めるための、もう一つの有力な手段なのです。

  患者さんが苦しんでいるのは、意識につまり現実に出てきた症状です。この症状が薬を飲んでも治まらない時、現実の話をいくらしてもカタルシスも生ぜず、中々現実生活に適応できないならば、症状の基である不安などがどういうものなのか考えるしかありません。この作業が精神分析的精神療法です。そこでは、生まれてからのいろんな体験を思い出しながら、無意識に押し込め蓋をしてしまった不安などを意識化していくのです。そして、現在の苦しみや症状の基になったものに気付き、それを自分のものとして受け容れる時、症状や苦しみは軽減していくのです。


  一度や二度話をしただけで解決するわけではありません。また、治療者は患者さんの上のような不安などを知っているわけでもないし、何らかのアドバイスをすることもありません。不安などに患者さんが自ずから気付くために、患者さんと治療者が協力して行う作業であることを理解して下さい。精神療法では患者さんもそして治療者も、忍耐強く治療を進めていくことが要求されます。まず半年ほどやってみて、一度それまでの治療を評価しながら、今後のことを決めていくといいでしょう。



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