家族・患者の立場でのベンゾジアゼピン系抗不安薬の理解 ( →コラム 抗不安薬の選択 )
不安や睡眠への治療に幅広く処方されるベンゾ系抗不安薬は、主たる薬剤として用いられるのみならず、抗精神病薬や抗鬱剤、また気分安定薬の補助として、あるいは頓服として広く使用されている。比較的副作用も少なく、安全に服用出来る薬剤ではあるが、依存、用量の増加、止めるのが意外に難しいなど問題点もあり、家族・当事者としては、うちの家族のベンゾ剤減薬→断薬もお伝えして、注意するべき点をいくつか述べて見たい。
1) ベンゾ系抗不安薬の代謝過程
以下の「ベンゾジアゼピン系睡眠剤(薬剤師向け資料:しろさん提供)内にある、ベンゾジアゼピン系製剤の体内動態に挙げられた、〔表〕ベゾジアゼピン系製剤の代謝一覧がある。 ( )によく処方される薬品名を挙げてみた。
@肝で酸化されるもの: →CYP3A4 アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)、エスタゾラム(ユーロジン)、エチゾラム(デパス)、オキサゾラム、クロキサゾラム(セパゾン)、クロチアゼパム(リーゼ)、クロラゼプ二カリウム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム(セルシン)、トリアゾラム(ハルシオン)、ハロキサゾラム、プラゼパム、フルジアゼパム(エリスパン)、フルタゾラム、フルトプラゼパム、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)、ブロチゾラム(レキソタン)、ミダゾラム、メキサゾラム、メダゼパム(レスミット)、ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)、クアゼパム(ドラール)
A肝でニトロ基の還元を受けるもの クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)、ニトラゼパム(ネルボン、ベンザミン)
にきびには役立ちます
B肝でO−脱メチル化を受けるもの トフィソパム(グランダキシン)
C直接グルクロン酸抱合を受けるもの オキサゼパム、ロルメタゼパム(エバミール、ロラメット)、ロラゼパム(ワイパックス、ユーバン)
Dほとんど代謝されないもの ニメタゼパム(エリミン)
ここでは、ベンゾ系薬剤の細かい薬剤代謝作用については割愛するが(→健康に生きる)
ロラゼパム(ユーバン、ワイパックス)は代謝の第一段階のCYPではなく、Cの直接グルクロン酸抱合を受けるといった簡単な代謝経路である。よってCYPに関係しないといったものなので、薬剤代謝面での体に及ぼす影響は少なく、また他剤併用の場合の相互作用もほとんどない点から、老人でも比較的安心して服用が出来ると言う根拠が成り立つ。
リボトリール(=ランドセン)は唯一癲癇に適用を持つが、ワイパックスやソラナックス同様にベンゾジアゼピン系の薬剤である。しかしBZ基本骨格の 7位にNO2−、Br−、CL−などの電子吸引基を持つリボトリールは、とりわけ中枢抑制機能が強い。さらにNO2-基(ニトロ基)を持っているため、抗痙攣作用があり、薬理活性は強い。代謝もAの肝でニトロ基の還元を受けるタイプになる。結論を言えば、気分安定目的に服用するには極めて効果の期待出来る薬剤である一方で、これだけシャープな薬剤は、抜くのがまた大変と言うことになる。
2) リボトリール(ランドセン)減薬の苦労
うつ病を解決する
息子は、再入院直後からランドセンとして1mgから始めて、最大で3mgも使用している。別に入っていたヒルナミンの量が多く(最大300mg)、アカシジアが顕著に出ていたので、ランドセンが、これを抑えるのに有効であったが、退院が近くなり、ヒルナミン減薬が始まり、同時にランドセンをある程度まで下げておかないと厄介なことになると思い、主治医には1mgまで下げるよう要請した。2週間ほどで1mgまでになっているが、ヒルナミンは200mgになっていたが、まだまだ単独で行くほどの量ではなく、間もなく退院となった。
セカンドオピニオン本の「減薬・断薬の基本」で書いたように、主剤の抗精神病薬が大量の段階で、付随的な抗不安薬や睡眠薬はある程度以上に減薬しておかないと、のちに主剤が適量になっても、これらを減らすとブレる、という事が起こるので、あくまで状況を見て、不要に入っている(主剤だけで睡眠や鎮静が十分行われていると思える状態)と判断出来る場合は、主剤減薬の初期に併せてやるのが、安全と思える。
私の下の肋骨の痛み
うちの場合入院期間に1mgまで減薬出来ていたので、退院後はランドセンを全く触らず、ヒルナミンを1週間で25mgずつ150mgまで減薬し、ここから25mgを2週間かけて減薬に入った。75mgになった頃から少しアカシジアが弱くなり、ここでようやく、ランドセンを0.5mgにしている。ヒルナミン50mgになった時に、ランドセンを1日置きに飲ませ、アカシジアの状況を見つつ、3週間ほどこの形を取って、断薬にこぎつけた。冷や冷やものだったが、主にはヒルナミンの鎮静効果と、さらにはもう1つの主剤である、リーマスが離脱を何とか大きくさせない状態に抑えたものと理解している。ランドセンのみが主剤として入っていたら、3mgから2mg、2mgから1mgへの移行も、もっと時間がかかっただろうし、場合によっては揺れ戻しがあったのではないかと想像する。やはり気分安定薬として、ベンゾ系のリボトリールの常用は避けるのが安全と言う私見である。
3) まとめとベンゾ剤の注意点
同じベンゾ系でも上記のように各薬剤で、代謝面、効果の出かた、さらには止める際の苦労など、色々な注意点がある。よって、気分安定の目的では、中枢神経に直接作用しないデパケン、さらに離脱面での問題の少ない、リーマスを主にするほうが後にはずす場合の苦労にはかなりの差が出ると思える。
また同時に眠剤として多用されるデパスなども、依存と離脱の難しさは、医療従事者自身も服用し(外科医の服用が多いと聞いている)、減薬、断薬に苦労している点からも、頓服使用が望ましいと思う。
ベンゾ系抗不安薬の短期作用型は一気に中枢で作用し、短時間で抜けていくため、そのギャップが大きいので、身体面での依存形成は極めて容易である点、さらにこの種の薬剤は耐性も生じるため、用量も増えること、また本来の病態が改善後も、気分の酩酊などを求めて、いつまでも服用する(依存)はこの種の薬剤の持つ最大の問題である。
最後にもう1点、一般に精神科医が言わないことだが、ベンゾ系薬剤が鎮静に働かず、脱抑制にのみ働いて、効果が得られない場合があるという点である。たとえは少し悪いが、酒を飲み、穏やかに落ち着く場合と酩酊から興奮状態(酒を飲んで人が変わったように粗暴になる状態)になる、これと似ていると考えればいいかと思う。これは気分障害で、双極型(鬱以外に躁を持つ方)には要注意の事項と思える。参考までに躁状態で2回の長期入院を経験している息子は、2回目の入院時に、ワイパックス服用で、どうも気分がハイになると訴えてから、もう2年以上頓服も含めて全く服用はしていない。特に脱抑制にしか薬剤が働かない場合は、家族の立場では、ベンゾ系抗不安薬については服用の選択からは見直すべきか と思える。
薬剤の本来の働きと何より当の自身の家族がどうその薬剤に反応しているか(いい方向に出ているのか、マイナスになっているのか)これは、抗不安薬に限らず、すべての薬剤に当てはまるが、決して医者任せにしないで、家族がしっかり見極めて、状況を医師と話し合いをすることが、特に精神科では何より大切なことではないかと思う。
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