2012年5月10日木曜日

サルモネラ感染症: グラム陰性桿菌: メルクマニュアル18版 日本語版


現在知られているサルモネラの血清型2200種類は以下のように分類できる

 人宿主に高度に適応したグループで,腸チフス菌パラチフスA菌,B菌(Salmonella schottmülleri)およびC菌(S.hirschfeldii)を含み,人のみに病原性があり,一般に腸チフス症を引き起こす

 人以外の宿主に適応したグループで,もっぱら動物のみに疾患を引き起こすが,このグループのなかでS. dublinS. choleraesuisの2菌種は人にも疾患を引き起こす

 特定の宿主に適応しないグループ。S. enteritidisと呼ばれるこのグループには2000種類以上の血清型があり,胃腸炎を引き起こし,米国における全サルモネラ感染症の原因の85%を占める。

腸チフス

腸チフスはチフス菌(S.typhi)によって引き起こされる全身性疾患である。症状には,高熱,虚脱,腹痛,およびバラ色の発疹がある。診断は臨床的に行い,培養により確定する。治療にはセフトリアキソンまたはシプロフロキサシンを使用する。

病因と病態生理

米国では毎年約400〜500例の腸チフスが報告されている。腸チフス菌は無症候性キャリアの糞便や,活動性疾患患者の糞便または尿中に排出される。糞便処理の衛生状態が不良な場合,腸チフス菌を地域社会の食物や飲料水へ拡散させることがある。衛生対策が概して不良な流行地域では,腸チフス菌は食物よりも水を介して頻繁に伝播する。先進国においては,主に健康保菌者を介して調理中に汚染された食物から伝播する。ハエは糞便から食物へ菌を拡散しうる。ときに小児の遊びの最中および成人の性行為中に,直接接触による伝播(糞口感染経路)が起こることがある。まれに,適切な腸管感染予防措置を受けていない病院職員が,汚れたベッドシーツの交換時にこの疾患に感染している。

この菌は胃腸管から体内へ侵入し,リンパ管を経て血流に入る。重症例では潰瘍,出血,腸穿孔が起こりうる。

未治療患者の約3%は,胆嚢に菌を保有して1年以上にわたり糞便中に菌を排出し,慢性腸管保菌者と称される。一部の保菌者には臨床的な腸チフスの既往がみられない。米国における推定2000人の保菌者の大半は慢性胆道疾患を有する高齢女性である。住血吸虫病に関連した閉塞性尿路疾患があると,一定のチフス患者は尿路保菌状態になりやすいと思われる。疫学的データは,腸チフス菌保菌者が一般集団よりも肝胆道癌にかかりやすいことを示している。

症状と徴候

潜伏期間(通常8〜14日)は摂取された菌数に反比例する。発症は通常穏やかで,発熱,頭痛,関節痛,咽頭炎,便秘,食欲不振,腹部の疼痛および圧痛を伴う。それほど一般的ではないが,排尿困難,乾性咳,鼻出血などもある。


パッチ斑

未治療では,体温が2〜3日かけて次第に上昇し,続く10〜14日間は高熱(通常39.4〜40°C)が持続し,3週目の終わりから徐々に下がり始めて4週目に正常体温となる。長引く発熱にはしばしば相対的徐脈および虚脱が随伴する。重症例ではせん妄,昏迷,または昏睡などの中枢神経症状が起こる。患者の約10%において,2週目に孤立性のピンク色から白い病変(バラ疹)が胸部および腹部に群発し,2〜5日で治まる。脾腫,白血球減少症,貧血,肝機能異常,蛋白尿,軽度の消費性凝固障害がよくみられる。急性胆嚢炎および肝炎が起こりうる。

腸病変が最も顕著な感染後期には鮮紅色の下痢が起こることがあり,糞便に血液が混入することもある(潜血便20%,肉眼的血便10%)。患者の約2%において,3週目に激しい出血が起こり,死亡率は約25%である。3週目の急性腹症および白血球増加は,患者の1〜2%に生じる腸穿孔(通常は回腸末端部を侵す)を示唆することがある。2週目から3週目に肺炎を発現することがあり,通常は肺炎球菌の二次感染に起因するものであるが,腸チフス菌も肺浸潤を引き起こす可能性がある。菌血症はときに骨髄炎,心内膜炎,髄膜炎,軟部組織膿瘍,糸球体炎または泌尿生殖路病変などの局所性感染を引き起こす。肺炎,発熱のみ,あるいは尿路感染症と合致する症状などの非定型的症状は,診断を遅らせることがある。回復期は数カ月間続くことがある。

未治療患者の8〜10%において,解熱から約2週間後に初期の臨床症候群に類似する症状や徴候が再発する。理由は明確ではないが,疾患初期の抗生物質治療により有熱性の再発の発生率が15〜20%に上昇する。再発時に抗生物質治療を再開すると,初期疾患時の緩徐な解熱とは異なり,発熱は急速に治まる。ときに,2度目の再発が起こる。

診断

類似症状を引き起こす他の感染症として,その他のサルモネラ感染症,主要なリケッチア症,レプトスピラ症,播種性結核,マラリア,ブルセラ症,野兎病,感染性肝炎,オウム病,腸炎エルシニア感染,リンパ腫がある。腸チフスは臨床経過の初期において,インフルエンザ,ウイルス性上気道感染症または尿路感染症に類似することがある。

血液,糞便,および尿の培養を行う必要がある。血液培養が陽性となるのは通常最初の2週間のみであるが,糞便培養は通常3〜5週目の間は陽性である。もしこれらの培養結果が陰性で,腸チフスが強く疑われる場合は,骨髄生検材料の培養により本菌が検出されることがある。

腸チフス菌は,宿主を刺激して対応する抗体の産生を促す抗原(OおよびH)をもつ。2週間間隔で採取したペア検体におけるOおよびH抗体価の4倍の上昇は,腸チフス菌感染を示唆する。しかし,この検査の感度は中程度(70%)に過ぎず,特異度を欠き,多くの非チフス性サルモネラ菌株が交差反応し,また肝硬変では偽陽性を示す。

予後と治療

抗生物質を使用しないと,死亡率は約12%である。速やかに治療すると,死亡率は1%未満である。ほとんどの死亡例は栄養不良の人,乳児,高齢者である。昏迷,昏睡,ショックは重症化と予後不良を示す。合併症は主に未治療の患者または治療が遅れた患者に起こる。


うつ病と不安症の症状

選択される抗生物質は,セフトリアキソン1g/kg,筋注または静注,1日2回(小児には25〜37.5mg/kg)7〜10日間,および種々のフルオロキノロン系(例,シプロフロキサシン500mg,経口,1日2回,10〜14日間,レボフロキサシン500mg,経口または静注,1日1回,14日間,ガチフロキサシン400mg,経口または静注,1日1回,14日間,モキシフロキサシン400mg,経口または静注,1日1回,14日間)である。クロラムフェニコール500mg,経口または静注,6時間毎は今も広く使用されるが,耐性が増加している。フルオロキノロン系は小児に使用することもある。in vitroでの感受性試験に基づいた代替治療には,アモキシシリン25mg/kgを経口,1日4回,トリメトプリム-スルファメトキサゾール(TMP-SMX)320/1600,1日2回,または10mg/kg(TMP成分)1日2回,およびアジスロマイシンを経口,1日目に1g,その後500mgを1日1回,6日間などがある。

重度の中毒症状に対して,抗生物質に加えてステロイド剤を投与することもある。通常はその後に解熱と臨床症状の改善がみられる。プレドニゾン20〜40mg,経口,1日1回(あるいは同等量)を治療の最初の3日間に投与すれば通常は十分である。高用量のコルチコステロイド(初期はデキサメタゾン3mg/kg,静注,その後合計48時間まで1mg/kg,6時間毎)は,著しいせん妄,昏睡,ショックの患者に使用される。

頻回の栄養補給により栄養状態を維持する。患者は発熱中,就床安静を保つ。サリチル酸類も低体温および低血圧を引き起こす可能性があり,緩下剤や浣腸と同様,使用を避けるべきである。一時的に非経口的栄養法を必要とするかもしれないが,清澄流動食により下痢を最小限にとどめうる。水分電解質療法,血液交換が必要なことがある。

腸穿孔とそれに関連した腹膜炎により,外科的処置および広範なグラム陰性菌に対する治療,ならびにBacteroides fragilisに対する治療が必要となる。

再発は初期疾患と同様に治療するが,5日間を超える抗生物質療法を要することはめったにない。

患者を地元の保健所に報告し,菌を保有していないことが証明されるまで,食品の取り扱いは禁止する必要がある。保菌者にならない人においても,急性疾患後3〜6カ月もの長い間,腸チフス菌が分離されることがある。そのため,保菌状態を否定するには,週1回間隔の糞便培養が3回続けて陰性でなければならない。

胆道に異常がない保菌者には抗生物質を投与するべきである。アモキシシリン2g,経口,1日3回,4週間による治癒率は約60%である。胆嚢疾患を有する一部の保菌者では,TMP-SMXとリファンピンで除菌が達成できる。他の症例では,術前1〜2日間と術後2〜3日間の抗生物質投与を伴う胆嚢切除術が有効である。

予防

飲料水の浄化,十分な下水処理,牛乳の低温殺菌,慢性保菌者による食品取り扱いの回避,患者の適切な隔離予防措置を実施する。腸管浄化には特別な注意が重要である。風土病地域への旅行者は,生の葉野菜や,室温で保存または給仕された食物,未処理水の摂取を避けるべきである。水の安全性が不明ならば,飲む前に煮沸するか塩素処理を行う。

腸チフスの弱毒経口生ワクチンが利用可能であり(Ty21a株),約70%有効である。1日おきに合計4回投与する。ワクチンは腸チフス菌の生菌を含有するため,免疫抑制状態患者には禁忌である。米国においては6歳未満の小児に対してTy21aワクチンを使用しない。代替として1回投与の筋注Vi多糖体ワクチンがあり,64〜72%有効で,忍容性は良好である。

非チフス性サルモネラ感染症


老犬と発作

非チフス性サルモネラ(主にSalmonella enteritidis)は,主として胃腸炎,菌血症,および病巣感染を起こす。症状は下痢,虚脱を伴う高熱,または局所の感染症状である。診断は血液,糞便,または感染部位検体の培養による。治療は,適応があればトリメトプリム-スルファメトキサゾールまたはシプロフロキサシンを使用し,膿瘍,血管病変,ならびに骨および関節の感染症に対しては外科的処置を施す。

非チフス性サルモネラ感染症の大半はS. enteritidisにより引き起こされる。この種の感染症はよくみられ,依然として米国における重要な公衆衛生問題である。S. enteritidisの多くの血清型に名称がつけられ,正式名称ではないが,同一種でありながら別種であるかのように扱われている。米国における最も一般的なサルモネラ血清型は,S. typhimurium(ネズミチフス菌), S. heidelbergS. newportS. infantisS. agonaS. montevideoS. saint-paulなどである。

人の疾患は,多くの種の感染動物,それらに由来する食料品,およびそれらの排泄物との直接的および間接的接触を介して発生する。感染した食肉,家禽,生乳,卵,卵製品がサルモネラの一般的な感染源である。その他に報告された感染源として,感染したペットのカメおよび爬虫類,カルミンレッド色素,汚染されたマリファナなどがある。

胃亜全摘術,無酸症(あるいは制酸薬の服用),鎌状赤血球貧血,脾臓摘出術,シラミ媒介性の回帰熱,マラリア,バルトネラ症,肝硬変,白血病,リンパ腫,HIV感染は,全てサルモネラ感染の危険因子である。

各々のサルモネラ血清型は,下記の臨床的症候群のいずれかまたは全てをもたらすが,一定の血清型が特定の症候群を示す傾向がある。例えば,腸チフス症状はパラチフスA菌,B菌およびC菌によって引き起こされる。

無症候性保菌状態も起こりうる。しかしながら保菌者は,非チフス性胃腸炎の大規模集団発生において重要な役割を果たさないようである。糞便への1年以上にわたる持続的な菌の排出は,非チフス性サルモネラ感染患者の0.2〜0.6%で起こるにすぎない。

症状と徴候

サルモネラ感染症は,胃腸炎,チフス症,菌血症症候群,あるいは限局性疾患として現れる。

胃腸炎は菌の摂食後,通常12〜48時間後に悪心および腹部痙攣痛で始まり,続いて下痢,発熱,ときに嘔吐が起こる。通常,糞便は水様性であるが,ペースト状で半固形の場合もある。まれに,粘液や血液がみられる。この疾患は一般的に軽症で,1〜4日続く。ときに,より重度の遷延性疾患が起こる。

腸チフスよりも重症度の低い腸熱(非チフス菌性腸チフス症)は,発熱,虚脱,および敗血症を特徴とする。


菌血症は胃腸炎の患者には比較的まれである。しかしながら,その他のなかでS. choleraesuisネズミチフス菌および S. heidelbergは,1週間以上続く持続性で高頻度に致死的な菌血症症候群を引き起こすことがあり,長引く発熱,頭痛,倦怠,および悪寒を伴うが,下痢はまれである。患者は,サルモネラ菌血症や他の侵襲性感染(例,敗血症性関節炎)の再発性症状を示すことがある。他に危険因子のない患者においてサルモネラ感染が繰り返される場合は,HIV検査を実施すべきである。

局所性のサルモネラ感染症は持続性菌血症を伴って,または伴わずに起こり,消化管(肝臓,胆嚢,および,虫垂),血管内皮表面(粥状硬化斑,回腸-大腿動脈または大動脈の動脈瘤,心臓弁),心膜,髄膜,肺,関節,骨,泌尿生殖路,軟部組織などの罹患器官自身の疼痛,または罹患器官に起因する疼痛を引き起こす。ときに既存の充実性腫瘍が播種されて膿瘍が生じ,それに続き膿瘍がサルモネラ菌血症の感染源となることがある。S. choleraesuisネズミチフス菌は局所性感染の最も一般的な原因菌である。

診断,治療,予防

診断は糞便または他の感染部位からの菌の分離による。菌血症および病巣感染型においては,血液培養は陽性であるが,糞便培養は概して陰性である。メチレンブルーで染色した糞便検体においては,炎症性腸炎を示す白血球がしばしば認められる。

胃腸炎は対症療法的に経口または静脈内輸液で治療する(胃腸炎: 治療を参照 )。抗生物質は菌の消失を促進せず,排出を長引かせることがあり,合併症のない例では妥当性は認められていない。しかしながら,高齢の看護ホーム居住者,乳児,HIV感染患者においては,死亡率が高いため抗生物質による治療が指示される。抗生物質耐性は,腸チフス菌よりも非チフス性サルモネラに多くみられる。小児にはトリメトプリム-スルファメトキサゾール(TMP-SMX)5mg/kg(TMP成分で),経口,12時間毎,成人にはシプロフロキサシン500mg,経口,12時間毎が容認できるレジメンである。非免疫不全患者では3〜5日間の治療とするが,AIDS患者は再発予防のために長期的治療を要することがある。全身性あるいは限局性疾患は,前述の腸チフスに対する抗生物質用量で治療するべきである。持続性菌血症には概して4〜6週間の治療を行う。膿瘍は外科的に排膿するべきである。手術後は少なくとも4週間の抗生物質治療を行う。感染した動脈瘤,心臓弁,骨または関節の感染は,通常,外科的処置および長期的抗生物質治療を必要とする。重度の基礎疾患がない限り,通常は予後良好である。

無症候性の保菌状態は通常自己限定性で,抗生物質治療はめったに必要とされない。まれなケース(例,食品を扱う人や医療従事者)において,シプロフロキサシン500mg,経口,12時間毎,1カ月間による除菌が試行されることがある。サルモネラの排除を裏づけるには,薬物投与後,何週間にもわたり追跡糞便培養を行わなければならない。

感染した動物や人による食品汚染の予防が最重要である。グラム陰性桿菌: 予防で考察された旅行者の予防措置は,他のほとんどの腸管感染にもあてはまる。症例報告は必須である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月



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