2012年3月24日土曜日

ちょんまげ英語日誌


老子の翻訳、第九章でござる。

原文
持而盈之、不如其已。揣而鋭之、不可長保。金玉滿堂、莫之能守。富貴而驕、自遺其咎。功遂身退、天之道。

書き下し文
持(じ)してこれを盈(み)たすは、その已(や)むるに如(し)かず。揣(きた)えてこれを鋭くするは、長く保つべからず。金玉(きんぎょく)堂に満つるは、これを能(よ)く守る莫(な)し。富貴にして驕(おご)るは、自らその咎(とが)を遺(のこ)す。功遂(と)げて身の退(しりぞ)くは、天の道なり。

英訳文
You should not try to keep a vessel full. The sharper the edge, the sooner it will be nicked. The more treasure you get, the harder to keep them. You will suffer disgrace if you are arrogant after winning fortune and fame. You should retire instantly when you achieved success. This is the way of heaven.

現代語訳
いつまでも器を満たし続けようとするのは止めたほうが良い。刃先を鋭く尖らせればそれだけ長持ちしなくなる。金銀財宝を蔵に満たせば満たすほど、それらを守るのが困難になる。富や名声を手に入れて傲慢になれば、かえって不名誉を残す事になる。自らのやるべき事をやり遂げたならば、さっさと引退するのが天の道というものだ。

Translated by へいはちろう


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「功遂げて」の部分は「功成り名を遂げて」としている本もあるでござるな。このブログでは王弼本や河上公本の違いなどのマニアックな話はしないので、老子と一言で言ってもテキストによって微妙な違いがあるという事だけ頭に置いといてくだされ。

さて今回の言葉はとても含蓄のある言葉でござるな。特に歴史好きな拙者のような人間からしたら「まさに然り」と頷かざるを得ない内容でござる。歴史上には一世の傑物と言える人物はたくさんいる。しかし本当に偉大な人物というのは、その成果を次代に繋ぐ事が出来た人物を言うのではないかと拙者は考える次第。


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我が国では徳川家康が良い例でござるな。家康は慶長8年に征夷大将軍に就いた後、2年後の慶長10年に息子の秀忠に将軍職を譲っているのでござる。ご存知の通り実質的には引退後も家康が実権を握っていたのでござるが、豊臣氏を滅ぼして将来の禍根を断ち、武家諸法度や禁中並公家諸法度を制定するなど幕府存続のためにいかに家康が苦心をしたかという事は説明するまでもないでござろう。秀忠は家康と比べると見劣りしがちでござるが(特に関が原での失策もあって戦に弱い点が指摘される)、家康の事績を保ち定着させて次代の家光に継いだ功績は存分に称えられるべきものでござる。

一人の天才の存在は周囲に依存心を植えつけてしまう。依存心は自分で考える力を低下させて、いざその天才が失われたときには混乱を招く事となる。その混乱を収拾するのにまた別の天才の出現を待つというのではいつまでたっても安定は訪れない。


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徳川幕府を例にとれば家康・秀忠とトップダウン体制による政治は家光の代になって年寄・老中たちによる合議制となり、ここに幕府政治が完成するのでござる。「創業は易し守成は難し」というのは家康が愛読したといわれる貞観政要(じょうがんせいよう)の言葉でござるが、守成の難しさを知っていた晩年の家康は、後継者を育て・さらには後継体制を作り上げる事に心血を注いだのでござる。

…なんだかいつまでたっても話が終わらない様な気がしてきたのでここで上記の貞観政要のエピソードを紹介して無理やりまとめるでござる。

唐の太宗が家臣に尋ねました、
「創業(事業を興す事)と守成(事業を維持する事)とどちらが難しいと思うか?」

副宰相の房玄齡が答えました、
「天下が混乱していると群雄が並びたちます。それらを討ち果たさねばならない点でいえば、創業の方が難しいといえるでしょう。」


魏徴はこう答えました、
「帝王が生まれる時と言うのは、必ず混乱した世の中で悪者を倒すために民衆の支持を得て事業を為すのです。天命や民衆が後押ししてくれますから難しいといってもそれほどの事はありません。しかし一度帝王の位を得てしまうと往々にして傲慢になり、民衆が静かに暮らしたいと思っても無理やり働かせ、民衆が貧しくてもさらに大きな事業を為そうとします。国家の衰退はこういう所から始まるものです。この点から言えば守成の方が難しいといえるでしょう。」

太宗はこれらを聞いて言いました、
「房玄齡は朕と苦労を共にして天下を取り、百死に一生を得た。それ故に創業の難しさを知っている。魏徴は天下を安定させる事を考え、傲慢な心が国家の衰亡につながる事を恐れている。それ故に守成の難しさを知っている。しかし創業の難しさは既に過去の事だ、これから守成の難しさを考えお前たちと身を慎む事にしよう。」

老子の英訳をまとめて読みたい方は本サイトの老子道徳経を英訳をご覧くだされ。



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